MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

【猪木に送る三本締め~4/15 神田伯山長野独演会】

「見たことないよ、三本締めなんて。それに160分の4席。充実すぎるだろう!」
名古屋の会で親しくさせていただいている方が、ラインで感想を述べて下さった。
その方は東京の会にも地方の会にも、スケジュールが許せば足を運んでいる講談好きの方。ただ、様々な講談師がいる中でも伯山は特別だ、そう話している。
「単なる力量ならばベテランですごい方はいくらでもいるんだ。でも伯山は一瞬でお客を引き込んで、手のひらにのせてしまう。あの年齢であれができるのが凄いんだ」
私はいつも仕事上、伯山先生はソデで聴く。仕事で出たり入ったりするのでずっと聴いてはいられないのだけれど、部分部分を聴いてもその意見には深く感銘する。
そんな伯山先生の高座を数多く聞いているその方でも、この北野文芸座の公演、中でも今回の充実度は特別だという。その理由は何なのだろう。

お迎えの駅のエレベータで、まずは客層を聞かれた。一見の方はあまりいらっしゃらず、常連が多い。変わったネタを好む傾向は都会とほぼ変わらない。そんな情報は事前にお伝えはした。結果、いろんなタイプの4席を選択し、最後はご自分が「エモい」と思っているネタ「矢矧橋」・・・そして最後に三本締め、これが特にその方の印象に残ったそう。なぜ?そんなことやったことないのに?常連がいぶかしがる中、私にはひとつだけ。「そうかもしれない」と思った心当たりがありました。

雷電初土俵」青之丞
河内山宗俊~卵のゆすり」伯山
清水次郎長伝~小政の生い立ち」伯山
五貫裁き」伯山~中入り
「矢矧橋」~太閤記 伯山

 

「先月、猪木さんのお別れ会に行ってきました」
「おう、そうでしたか。どうでした?」

タクシーの中で切り出したこの話題に、伯山先生はすぐに反応なさった。
瞬殺で1万円のチケットがなくなった話、今回の仕切りは新しいマネージメント会社が切り盛りしたという話、2年前に亡くなった奥様の話、お墓はどこになるのか、という話など、次から次へと猪木さんのことで盛り上がる。

「そう考えれば、伯山先生は猪木さんと対談なさったんですねえ。すごいことです」
「逆に言えばあのタイミングでできたのはありがたかったです。友人にもうらやましがられましたから」

そりゃあそうだ。還暦を迎えた私でも誰でも、猪木さんと公の場で対談できる人は絶対羨ましい。かくいう私は田舎の北志賀高原で控室で5分、新日本プロレス社員の結婚式の披露宴の時に4分、合計9分だけしか話したことはない。そう考えれば彼は、ぎりぎりのタイミングで対談できるほどの地位まで上り詰めたスターなのだ。

そうか!神田伯山の高座は、猪木のプロレス。
猪木は、相手を光らせて自分も光るプロレスの達人。
一瞬で観客を自分の手のひらに乗せ客を熱く燃えさせる。
おんなじなんだ。猪木も、伯山も。

でも亡くなってもう半年になるけれど、多くの人が猪木さんを忘れられない。それは伯山先生も私も、時代は違うけれど今の思いは一緒・・・・もしかしたら、あの三本締めは、380人のお客様と一緒に、猪木さんを元気に送ってあげる三本締めだったんじゃないのか…。突然言い出した伯山先生のその行動の真意はもちろんわからないし、聴いていない。でも少なくとも私は、天国の猪木さんに届くように上を見て手をたたいた。そう思うことは勝手ですよね、伯山先生・・・。

大満足で帰路につくお客様。すかさず社用車で駅まで送る私。あっという間に公演は終わったけれど、まだまだ私もこういう至福の時を何度も味わっていきたい。
そのためには健康で、元気で。

「元気があれば、なんでもできる。」

来年の独演会は、令和6年 4月13日です。