MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

【NGワードをぶち破った男】~10/29 一之輔・小痴楽二人会~

「名古屋でやったネタは避けたほうがいいですかね?」
小痴楽師匠に開演前にそう聞かれた時、家内はこう答えました。
「名古屋と飛騨は全く客層が違うので、同じでも全然かまいません。
ただ、できたら甚五郎ネタは避けて下さると助かります」

過去、足かけ10年こちらのお仕事を頂く中で、主催者の方から一番最初にきいたことをいつも思い出します。

「高山にいらっしゃると地元だからなのか、みなさん左甚五郎ネタをお演りになるんですよ」

甚五郎ネタで有名な「抜け雀」「竹の水仙」「ねずみ」の3つは、高山周辺での落語会で必ずと言っていいほど演じられていたネタ。高山の人たちだから、地元の名士が出てくるネタだから喜ぶだろう・・・みなさんたぶんそう思われて演じて下さるのでしょうが、実はこちらの方にとってはこの3つは「聞き飽きたネタ」なのです。

だからこの3つをお持ちの方、例えば扇辰師匠やたい平師匠、そういえば4年前、最後にお仕事をさせていただいた円楽師匠にもはずしてほしいとお願いした覚えがあります。
それだけ気を遣って始まった会、幕が上がっただけで大拍手、というスタートから一之輔ワールドさく裂、そのあとと中入り後に小痴楽師匠が得意ネタを二席。あとはトリの一之輔師匠がまとめにかかるだけというその時、師匠が「旅というのは・・・」と噺を始めた瞬間、ふたりで「しまった」と声をあげてしまいました。「甚五郎ネタは避けて下さい」を小痴楽師匠にはお伝えしたのに一之輔師匠にはその旨をお伝えしなかった。3つの中でもいちばんかけられた回数の多い「ねずみ」・・・。
お客様が「またか」と思うかどうか、私はソデでその反応を探っていたのですが、開始してすぐ、その語り口に私自身がぐいぐい引き込まれていきました。

ネタバレになると困るのですが、「ねずみ」には私が今までどうしても腑に落ちない箇所がいくつかありました。それは、

・特に聞きもしないのにねずみやの主は自分の落ちぶれた話を会ったばかりの旅人に事細かにしたがるのか

・ねずみが動くくだりの描写の為だけに近所のお百姓を登場させ、さらに見たから泊って行けと無理を言う箇所の違和感

・どうしてねずみが動くことでもうかったのに今まで世話になった生駒屋に客をまわしてあげないのか

の3点だったのですが、一之輔師匠はこの3つを見事にアレンジして、自分だけの「ねずみ」を完成させていました。

これなら、全く違うストーリーと言っても過言ではない。私は一之輔師匠の力量にひたすら舌を巻くばかり。避けて下さいと言わなくて本当によかったと心底思ったのです。

えっ??
どういう風に変えたのかって?

それは、皆さんの耳で目で、直に聞く日まで秘密です。我々の抱いたちっぽけな懸念を、「甚五郎」ネタをNGワードと思い込んでいたすべてを心地よくぶち壊してくれた。一之輔師匠はもう、江戸落語界の第一人者。そういえるほど高いクオリティーを維持している凄い方。それを再認識した、秋の高山の一日でした。