MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

「便りがないのがいい便り?」~玉川太福大須独演會~

MUGEプランニング正月最初の公演は、ここ数年玉川太福大須独演會となっています。
柳家小せん師匠が浪曲に挑戦、また坂本頼光さんの活弁、かけ橋さんの落語など、ゲストも多彩なこの会、今回のゲストは田辺いちかさんでした。

その日のうちに旧ツィッター(X)にあげた通り中身の濃い素晴らしい会になったのですが、この会の前段階で タイトルにある「便りのないのはいい便り」的なことが実は二つ、起こっていたのです。

1.太福さんが独演会を行なうこの日、東京では太福さんが中心となって企画したらしい「新春なかの浪曲大会」なるものが行なわれ、チラシに太福さんが載っていたのです。
「もしかして、ダブルブッキング???」もうかなりチケット売れているのに…困る!!!」2週間ほど前にわかってドキドキしていたのですが、その割に太福さんから連絡が来ない。。。じゃ、いいの?大丈夫なんだよね・・・??」心配をする私でしたが、切符を送っても普通に返事が来て、その話題は全く出てきません。

「便りの無いのは良い便り??」そう思って当日。最初のマクラで、実は…。とお客さんの前で事情説明。そんなことでも話題に変える、機転の利くことろを見せて下さった太福さんでした。

2.もうひとつの「便りがないのは・・・」はいちかさん。
3日前の東京での公演を、体調不良のため休演したいちかさん。
えっ??コロナ?インフル?それとも??
今回ゲストのいちかさんを聴きに来る方も多く、彼女が休演したら会の延期も??と気も冷やしたのですがその後朝になっても昼になってもいちかさんから連絡は来ません。
医者に行ってから電話が来るか、朝、起きられなくて連絡をしてこないのでは・・・
太福さん以上に気に病み、おたおたしてるのに、いちかさんからは何も連絡が来ず。
そのままとうとう当日。多少のかすれ声ではあるけれど、いつもの笑顔でいちかさん登場。

新年一発目から肝を冷やしたムゲプラ公演でありました。



名古屋で上方落語を盛り上げたい想い

改めまして新年あけましておめでとうございます。
今年1年、またよろしくお願い致します。

ここのところ、上方落語の面白さを最認識しています。
上方落語は関西弁です。この関西弁について、プロの方がわずかな言葉のイントネーションが京都の言葉と大阪と神戸と微妙に違うとか、生粋の上方弁を操ることができる噺家は意外に少ないとか、なんかいろいろおっしゃいますが私にはみんなおんなじに聞こえるし、たぶんほとんどのお客様がそうだと思います。

よく江戸落語上方落語はどこがどう違うのか、って聞かれることがあるけど、はっきりいって別のものです。全然違うものです。 あの独特のイントネーションで流れるようにしゃべくることでもわかるように、上方落語はまず、「上方弁」が先にあって、演者はその言葉のあとからついてくる感じでしょうか。学生の大会を見ればよくわかるのですが、学生の大会では明らかに上方落語が有利です。

大学の落研の稽古の中身をみると、関西のほうが圧倒的に指導方法がOBの充実度も含め確立しています。それは上方落語という一つの完成されたパッケージを、それごと模倣させる手法をとることができるからです。わかりやすく言うと、食事の支度に時間をかけることがなかなかできないおかあさんが、夕食に必要な野菜や肉などを一人分ずつ分けて、調理しやすい状態で各家庭にお届けする食材宅配サービスを利用する、まさにあの「一人前食材」が一つの噺だと考えればよいかと思います。その食材を食べさえすればあらかじめ計算された栄養を摂ることができるのと同様、稽古さえすればその人の個性がどうでもその言葉の言い回しで人を笑わすことができる点で、上方落語は学生に教えやすい側面を持っています。 ですが、それは同時に誰でも同じような噺をする人が学生に増えていくということでもあります。誰を聞いてもそこそこ笑えるが、逆に誰が何の噺をやったかということをすぐに忘れてしまうほどイメージが一緒になるという危険をはらんでいます。 落研に在籍できるのは多くて4年程度、その期間にお客様に聞かせるレベルまで持っていくというものが主目的だとするならば、上方落語はとても学生向きの教材だということができましょう。

しかし、学生向きであるということと、プロが仕事としてやっていくことは全く同じではありません。上方落語で学生タイトルを取って鳴り物入りでプロに入っても、そこで通用するかどうかは全く未知数です。どうしてなのか。プロとアマの間には技術の差がありすぎて、修業をしなければお客様をつかむことはできないからなのでしょうか。 私は違うと思います。あまりにもこの「上方弁」の個性が強すぎて、その殻を破って自分の個性を出してゆくという作業が江戸に比べて数倍、いや、下手をすれば数十倍大変だからだと考えています。

改めて見てみると、今関西で人気があり、大きな会場がすぐにいっぱいになるような観客動員力を持つ噺家さんは誰なのか。またその落語家は落語だけでのし上がってきた人ですか??仁鶴、三枝、鶴瓶、八方、文珍、ざこば・・・。 みんな、落語で人気が出てきたのではないんです。先にテレビのコメディアンとして名前を売ったから、その人たちの落語を聞きにみなさんが来て下さっている。つまり落語を演じているだけでは自分の個性を出すことがなかなかできないのが上方。上方落語というジャンル・・・・。

何年か前に落語に詳しい方と話すことがあり、その方が上方落語をやるアマチュアや学生、はたまたプロの若い人に至るまで、みんな「枝雀」になっている、とおっしゃっていたのを聞いてとてもうなづけるものがありました。でも、枝雀のコピーはコピーにすぎない。その上をゆく個性派落語家が現れなくては未来はない。 そんな危機感を持ったからこそ、純粋に落語をやりながらのし上がってきた雀々師匠が環境を変えたくて東京にお引越しをされたのではないか、私はそんな邪推をしました。

東京における昇太、喬太郎遊雀、一之輔、白鳥、白酒にあたる年齢の粋のいい上方の落語家が少ない、そんな気がするのです。 学生時代にキャラ作りが間に合わなくても、江戸落語をやる学生は自分のやってきた落語の中で少しずつ少しずつ肉付けをしながら、卒業後にプロの門をたたく人が増えている、それは、最初はとてもうまくなるのに苦労しても、将来にはきっと役立つという江戸落語の特性によるものだと、私は思うのであります。 どちらが良いかという問題ではありません。

でも、ここ数年上方落語の公演を多く手掛けてきて、楽しみな若手が少しずつ育ってきたような気がしています。東海地区においてあきらかに関東に観客動員が劣っていることは事実ですが、その状況下で今後上方落語をどう広めるか、認知させていくか。
MUGEプランニングの次の目標はそこに置きたい。東西の二人会を数多く開き、お客様に違いを味わって頂き、その上で上方の魅力も訴えていきたい。
2024年はまずはそこに目標を置きたいと考えています。
本年もよろしくお願い致します。

新年のご挨拶&友の会 会員募集

あけましておめでとうございます。MUGEプランニング公演に平素よりお越し頂きありがとうございます。今年も皆様にウチだけの個性あふれる企画の公演をお届けしようと思っています。どうかよろしくお願いします。

今年は元旦から北陸地方を大地震が襲い、亡くなった方や家の倒壊など胸が締め付けられる思いです。特にMUGEプランニングでお付き合いをさせていただいている柏崎市の方々の被害状況がとても気になります。まずは3月の一之輔師匠の会でお客様の元気な姿を見たいと心から思います。

さて、東海地方の皆様には今年もムゲプラ友の会の会員募集を行ないます。
今年は諸般の事情により昨年までの粗品のお渡しがなくなりました。ご理解いただけますようお願い申し上げます。

令和5年度会員の皆様には今月発送する4月公演の先行販売の案内ハガキが最後になり、割引券が使用できるのも3月24日の公演が最終となります。
どうか引き続き友の会へ入会して頂き、今年一年のムゲプラ落語にお付き合い願えれば幸いに存じます。

 

【そこは秘密のアジト】~12月のレピリエ公演~

3年前、獅鉄くんから名古屋の会場として紹介して頂いた円頓寺レピリエ。
名古屋駅から近く、古民家なので趣もあり、楽屋もしっかりしている使い勝手の良さに惹かれ、それ以降MUGEプランニングの小さな会の本拠地として利用している。
基本、12月の名古屋は大須演芸場も定席のほかに松井誠公演で長期に押さえられ、下旬は大名古屋落語祭と師走ならぬ「落走」月間なのでMUGEプランニングの公演は若手中心、レピリエ公演となる。

今年も二週間の間に5本。お客様にもだんだん認知されてきたようで何より。

12/6(水) 笑福亭羽光
私小説落語三題>
「青春編パート2」 「胸の痛み編」 「スローバラード編」

とても繊細で、物静かな羽光師匠。自分の歩んできた道で起こったことを隠すことなく落語に落とし込み、お客様の共感を得ていく。いじめられた経験やふられた経験など、生きていれば必ず自分にも当てはまりそうな事柄がさらに深く思い起こされる。
落語という芸能がいかに門戸の広い、なんでも受け入れるジャンルであることを改めて思い知った夜でした。

 

12/9(土)桂吉の丞
「犬の目」「餅屋問答」「一文笛」


3回目にして今までで一番の盛り上がり。それは、お客様に認知されたということももちろんあるとは思いますが、この日は気合の入れ方がものすごかった。特にマクラの構成がうまくできていて、米朝一門の匂いがそこかしこに感じられる秀逸の高座。
終わってから出演料を渡し、その領収書の住所、名前が手が震えていてかけない、そこまでパワーを使い果たしていたことに驚愕した9日でした。

 

12/16(土)昼 春風亭いっ休
「牛ほめ」「百歳万歳」「蛙茶番」

11月上席に二つ目に昇進するまでなんと5年9ヶ月を要した、コロナの犠牲者?ともいえるいっ休さん。一之輔師匠の前座でいらっしゃった頃は、よどみなくきっちりした口調で大物を感じさせたけれど、実際3席聞くとまだ、自分なりのオリジナリティーを出していくにはまだまだかな、という感じがしました。でもそれも経験を積んでいけば問題なくなること、そこまで応援していこうと思わせる、若々しい高座でした。

12/16(土)夕  柳亭市好
ちりとてちん」「大工調べ」「浜野矩随」

二つ目になって3年、方向性にいちばん迷う時期。学生時代から知っている彼の誠実な人柄は、噺家になっても変わることがないようで、師匠や先輩たちからお仕事をよくいただいていますと語る。芸人はどんな方法でも、売れればそれが正義。小さな会で「大工調べ」を通しで演じ、中入り後には浜野を語るその気概に拍手。頑張れ。

12/17(日) 笑福亭由瓶
蝦蟇の油」「転宅」「除夜の雪」

MUGEプランニング2023年最終公演となったのは、上方の奇才、26年のキャリアを持つ人気者由瓶さん。前日とはうって変わり、爆笑落語で会場を揺らしまくり、中入り後はしんみり大みそかの物語。引き出しの多さはさすが。半年に一度、名古屋で由瓶師匠を聴けるのは本当に楽しみなのです。

今年もあと10日。
一年間MUGEプランニング公演にお越し頂き、ありがとうございました。また来年もよろしくお願い申し上げます。

 

思いもかけないクレーム~【11/26 オースのジョー14】

令和5年、ムゲプラ最後の大須公演は、人気落語家古今亭菊之丞師匠の独演会でした。
よく、当たりはずれなどと言いますが、菊之丞師匠の高座にはほとんど外れがありません。そして、その語り口には江戸の風がビュービュー吹いている。昨今はやりのギャグや入れごともほとんどなく、それこそ本寸法の代名詞のような落語家さん。
またいつもは中入り後に色物さんをお願いしていましたが、今回は久しぶりの落語家さん、柳家小せん師匠。一緒の昭和カラオケサークルに所属していたりで交流もあるためか、なごやかな雰囲気で会は進行していました。

「転失気」さく平
「お見立て」菊之丞~中入り~
お血脈」小せん
文七元結」菊之丞

中入り後、受付に立っていたスタッフのもとに、一人の男の方が歩み寄り、何か言っているのを目にしました。何かスタッフがしくじったのか、前半の会で携帯が鳴るとか、トラブルがあったのか…。心配して聞くと、その内容は意外なものでした。

「一昨日ここに来た時もおなじ『お見立て』だった。もっと期間が空いているならまだしも、2日前と今日で同じネタはおかしいじゃないか。しかも同じ古今亭。両方来ている人だって多くいるんだから、気を遣わなきゃダメだろう。今時はSNSとかで何のネタが出ているかわかるんだから、それも調べてネタが被らないようにしてほしい」

説明すると、東京の寄席は昼の部の間は同じネタはかけない。それどころかたとえば殿様が出てくればその傾向の噺はかけないし、与太郎、夫婦、などの傾向の噺が出ればそれも避ける。俗に「ネタが付く」と言われます。また、昼夜通しのお客様を想定して「初天神」が昼間出たら夜は避ける。それが寄席の不文律。

それを踏まえてこの日の場合で言うと、金曜日の夜席にはじめ亭しげたさんが行なった公演で、確かに雲助師匠が「お見立て」を演っています。場所もおなじ大須演芸場
楽屋のネタ帖にはそのネタは書いてあるはず、それは確かにそう。でも主催者が違い、日時も違い、お見立てをかけた演者も違う。その状況で菊之丞師匠に「お見立て」はやらないでほしいと頼むことはできません。過去13回の公演で何を演じたかのほうが師匠にとっても主催者にとっても重要。ただ、落語ファンからしてみたら同じネタかよ、と思うのも必然。さてどうしたものか・・・。と考えさせる公演になってしまいました。

よろしければ皆さんのご意見をお聞かせください!

 

 

【マサムラのシュークリーム~11/23 小痴楽二葉二人会】

その日、北野文芸座での公演を前にいつものように長野駅に演者さんを迎えに行った私は、改札から出るなり二葉さんに声がけをする出待ちの光景を見た。
会場の前で出待ちをするのはよくあることだけれど、駅の到着を待って出待ちは初めてで、立ち止まってその対応をしようとする二葉さんになのか、その出待ちの人になのか自分でもわからないまま「急ぎますんで~」と弱弱しく叫んだ私。効果ない~。

「あ、5月はすみませんでした~」柏崎の休演を詫びる二葉さんだけれど、その後も続くハードスケジュールのためか相変わらずお疲れの様子に見える。今回もテレビのレギュラーも「ぽかぽか」の生放送参加の翌日、東京から出演しそのあと北陸回りで大阪に帰るため、自分の胸元ぐらいまである大きなキャリーケースを持参、ここまできたらマネジャー帯同したほうがいいと、心底心配してしまいました。

でも本番前は、開場15分前まで高座の上で稽古。2席やるので2席分。それが終わるとロビーに突如現れ、スタッフと談笑。感心したのは何人もいるスタッフ一人一人に話しかける時は必ずその人の目を見ていたこと。今を時めく二葉さんの視線が突き刺さるのだからスタッフは感激。

「わたしぃ、長野県大好きなんですぅ!食べ物美味しいし、ほんっと長野にこれてよかった!特に好きなのはね、松本に行ったときに食べたマサムラのシュークリーム、あと一本ネギ、これラジオでこの間宣伝しといた。それほどうまい、ばかうま!!」
とってもフレンドリーなその立ち居振る舞いを見て、売れっ子になるべくしてなったんだなあ、と思ったのです。

「うわあああ、マサムラのシュークリームや、ほんもんや!」開演15分前。楽屋にけたたましい叫び声が響く。お客様からさっき話したばかりのシュークリーム。わざわざ松本から片道約1時間かけての差し入れに、二葉さんのテンションが一発で爆上がりのまま、本番へ。

浮世床」 菊正
湯屋番」 小痴楽
「子は鎹」 二葉 ~中入り~
「天狗さし」二葉
「大工調べ」小痴楽

小痴楽師匠も負けじと鉄板ネタ。遊雀テイスト満載の湯屋番。
本当にフレッシュな、いい感じの公演。お客様も大満足の会でした・・・
携帯さえ、鳴らなければ!大工の棟梁、怒っておりました!

 

【新作派の苦悩~11/12愛シテツ3】

鯉八さんの落語は、感性の落語です。ご自分の世界観に沿って、登場人物に色付けをしていくけれど、次の展開が全く読めない、落語ファンにとっては「最高難度」の落語だと私は思っています。反対に、獅鉄さんの落語は「擬人化」の作品が多いような気がします。電車や動物、植物や単なる「物」にまで命を吹き込み、SFチックに噺を展開していく。同じ新作というカテゴリでも、この二人の落語は北極と南極ほどの違いがある、私はそう思っています。

そのふたりが共にNHK新人落語大賞について語ったトークの中身が興味深かった。
「ぼくの落語は誰かの強力なプッシュがないと賞レースの決勝進出はない」
「NHKの時もそういう方が関係者のなかにいたと聞いた」
鯉八師匠のその言葉は、東西で次代の落語を汗水たらして作っている新作派の苦悩を表しているのだと感じました。

東海地方でも、この新作派の師匠は名が知れているから古典派の中に加えておく、という扱いの落語会がほとんどで、中身の新作を聴かせたいから、という主催者が見当たらない。
落語はやはり古典、という空気がまだまだお客様の中に固定観念としてあるという事実に、新作派はずっと自分の構築する世界を「仕事」という経済行為と両立していかなければならない宿命を背負っているのです。

先代から受け継いだ古典をそのまま寸分の狂いもなく演じる「守旧派」、古典のあらすじを基本に面白くなるように変えていく「改作派」が全盛のこの時代を生き抜いていかなければならない新作派のふたり。そこにある種の悲哀を感じるのは私だけでしょうか。
でも一度来た道は行くしかない。そしてその場を提供する主催者がいないなら私がやる、
そんな妙な使命感に燃えた、愛シテツ3でした。

「SAPPORO 」獅鉄
「黄金風景」鯉八
「Where is HIROSIGE?」獅鉄
「新作トーク」鯉八獅鉄
「若草」鯉八