MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

ショーリショー3~松鯉・鯉昇二人会 雑感

一晩経っても、あの感動が冷めやらない夜を迎えています。
夜になってコンクリートの床から冷える演芸場を、ほっこり温めて下さった名人二人。
開演前の控室で、それまでのネタ帖をご覧になっていた松鯉先生が、ふいに「じゃあトリなら今日は、肉付きの面をやりましょうか」とおっしゃいました。話には聞いていましたが実は生で拝見するのは初めてなのですというと松鯉先生はにっこり微笑んで、「オカルト講談ですよ」とお答えになりました。

鯉昇師匠はいつものように顔をほころばせながら、最近の寄席には少しずつお客様が戻ってきている、でもそれまでの常連さんはいなくなりましたねえと、ちょっと寂しげな表情。それでも耳の遠い松鯉先生の耳元で声を張り上げながら楽しそうに世間話をする鯉昇師匠。仲の良さがこちらまで伝わってくる、そんな楽屋でした。

「転失気」伸ぴん
「赤垣源蔵 徳利の別れ」松鯉
「味噌蔵」鯉昇 ~中入り~
「馬のす」鯉昇
「肉付きの面」松鯉

「凄いものを聞かせて頂いています」徳利の別れを聞き終わるやいなや、裏方をやっていた獅鉄君が興奮して話しかけてくるほどの充実度。適度な小屋の大きさが、目の前の松鯉先生の講談の凄さをアシストしているかのよう。それを受けての鯉昇師匠は、耳の遠い松鯉先生だから、ここでどんなに悪口を言っても楽屋には聞こえないので安心する、といつもとは違うマクラで大爆笑を誘い、その流れで味噌蔵に。「ちょっと押しちゃったね」汗をかきかき戻ってきた鯉昇師匠の満足げな表情。そこには、一芸を極めた男二人の、見事にスイングした高座がありました。

中入り。アナウンスで本日松鯉先生が浅草芸能大賞の大賞を受賞された旨アナウンスさせて頂く。お客様の万雷の拍手の後登場した鯉昇師匠は、「芸に努力してきた松鯉先生ほどではないけれど、私もできたら人間国宝は無理でも天然記念物ぐらいは」とコメントしまたまた爆笑を誘い、トリネタのアシストで馬のすを軽く演じた後に松鯉先生の「肉付きの面」は、それはそれは迫真の演技、国宝にふさわしい見事な語り口。
緞帳が閉まる時のお客様の表情は皆、満足感にあふれているように見えました。

若い噺家さんのみずみずしい高座もいいけれど、ベテランには絶対に、若者がまねができない領域がある。そしてMUGEプランニングはそれをきちんと、お客様に提供する義務がある、そう思っているからこそ、演者と主催者の気持ちが見事に合わさったこの日の公演を仕切ることができた喜びがわきあふれてきたのです。

「来年もまた。」昨年と同じセリフを聞けました。
「それまでお二人ともお元気で。」10.20・名古屋の夜はこうして更けていきました。

【2022年 1月~3月 公演スケジュール】

◎お待たせいたしました。
2022年度の現在決定している落語会の情報です。
スケジュールに書き留めておいてくださいませ。

【1月】

1/9(日)13:30
玉川太福独演会 大須演芸場
全席指定 ¥3,500  玉川太福 新作&古典浪曲
ゲスト 坂本頼光活動弁士)<10/20(水)会場先行販売 その後一般発売>

1/9(日)17:00
辰のオトシゴ3~小辰を熱くする会 大須演芸場
全席指定 ¥3,000  入船亭小辰(2席)
刺客 その3 笑福亭喬介上方落語協会)<10/20 会場販売 その後一般発売>

1/16(日)14:00 ヤバすぎ新作5~獅鉄年明け記念 大須演芸場
全席指定¥3,500 
林家きく麿  古今亭今輔  古今亭駒治  登龍亭獅鉄 <10/31 会場販売 その後一般発売>

1/30(日)13:00 祝・二つ目昇進 林家きよ彦 独演会 名古屋市那古野 円頓寺レピリエ
全席自由 ¥2,500 林家きよ彦 3席予定(古典&新作) 

1/30(日)16:30  笑福亭由瓶 独演会~ボヤきのユーヘイ名古屋編
全席自由  料金未定 由瓶3席 (古典&新作)名古屋市那古野 円頓寺レピリエ
        <チケット 10月中旬発売>

【2月】
2/12(土)14:00  扇遊・鯉昇二人会~「オースは遊に鯉してる」 大須演芸場
全席指定¥3,500  入船亭扇遊 瀧川鯉昇 各2席 <11/8 扇々喬々で先行販売> 

2/13(日)14:00  小せん・アキット ユメユメコラボ5 大須演芸場
全席指定 ¥4,000  柳家小せん 魔法使いアキット <10/9 頼光アキットで予約受付>

2/27(日)14:00  一朝・朝枝親子会~もうすぐ春の風が吹く~ 大須演芸場
全席指定 ¥3,500 春風亭一朝 春風亭朝枝 各2席<11/8 扇々喬々で先行販売>

※以降の公演は発売日未定です

【3月】
3/13(日)14:00  名古屋らくご兼宮会 大須演芸場
全席指定 ¥3,800  三遊亭兼好 桂宮治 各2席

3/21(日)14:00  名古屋鉄道落語の会 大須演芸場
全席指定 ¥3,000   桂梅團治 桂しん吉 登龍亭獅鉄

 

小辰の可能性は無限~「辰のオトシゴ2」雑感

入船亭小辰・真打への道・・・今年から開始した企画は、東海のお客様に彼の実力を認知して頂き、真打になってからも末永く贔屓にしていただきたいとの思いから始めたものです。落語界は長らく落語協会主流の流れで推移してきました。所属の落語家さんも落語協会は芸協の約2倍の陣容を誇っているのですが、芸協の事務方の尽力や、他の要素が加わり若手の層についての人気は今や落語協会は芸協の後塵を拝する結果となっています。しかしながらその落語協会でも、実力的には芸協若手を凌駕する資質を持った噺家が何人もいます。その筆頭が小辰さんだと思っています。

その小辰さんが先輩真打と真っ向勝負してどこまで太刀打ちできるか、そんな趣旨で始めた第一回で、刺客の龍玉師匠は真っ向勝負、160kmストレートで小辰さんを攻めて下さった。そして二回目は変化球の馬るこ師匠。前回とは打って変わった展開となりました。

高砂や」小辰 「糖質制限初天神」馬るこ
「闇のたらちね」馬るこ 「不孝者」小辰

馬るこ師匠は予想通り、カットボール、フォーク、カーブ、時には内角のデッドボールすれすれの球を駆使して小辰さんを追い詰める。持ち球のご自分の改作の中での自信作を目一杯ぶつけてきたことでそれがわかります。それに対して小辰さんは、「不孝者」という、あまり地方ではかからない噺をまさに本寸法で完璧に演じて下さり、落語の多様性を存分に発揮して下さいました。二人会の醍醐味をお客様に味わっていただいた満足感、小辰さんの力を感じ取ってくださったお客様が次回のチケットを我先にと購入して頂いたこと、本当にありがたい限りです。

正式には理事会で決定されますが、小辰さんの真打昇進は来年、2022年の秋になると思われます。となると辰のオトシゴはあと3回、こちらのブログでは日程とその刺客を発表します。皆様、ぜひ来年3回の辰のオトシゴをよろしくお願いします。

★辰のオトシゴ3 令和4年 1月9日(日)17:00開演
刺客その3 笑福亭喬介上方落語協会) 
チケット一般発売 10月初旬予定

★辰のオトシゴ4 令和4年 5月8日(日)14:00開演
刺客その4 古今亭文菊落語協会) チケット後日

★辰のオトシゴ5 令和4年 9月11日(日)14:00開演
刺客その5 桂宮治落語芸術協会) チケット後日

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「チケット予約、支払い・・・アナログにこだわる意味」

「こちらから先にチケットを送り致します。中に郵便振替用紙を入れておきますので、郵便局よりお振込み下さい」(この口座にはネットバンキングからも振り込みは可能です)

MUGEプランニングのチケット受け渡しのシステムです。
15年ぐらい前から、ずっとこのシステムでやってきました。
チケットは、ひと公演ごとに色を変えて、お客様が間違えないように手作りします。

今、公演のチケット予約システムは機械化され、チケットぴあでもイープラスでも、ネットから簡単に購入出来て支払いもカード引き落とし、コンビニ支払いと多岐にわたり、お客様にとっては便利な世の中なのにどうしてMUGEプランニングはいつまでもアナログなのかと聞かれます。答えはひとつ、お客様一人一人ときちんと向き合って、信頼関係を作っていきたいからでした。

人気公演ともなれば、ともすれば発売開始と同時に人海戦術でチケットを買い占め、ヤフオクやメルカリで高額で転売する輩があとを絶たず、社会問題にもなっている昨今ですが、MUGEプランニングでは高額な転売屋に悩まされたことはありません。

それもこれもお客様のご住所にチケットを直接送るシステムで、どの席番号がどのお客様にいきわたっているかきちんと把握できているためで、その意味でプレイガイドも、限られたお店のみに限定させて頂き、店頭販売以外は住所をお聞きすることを徹底しています。

一見お客様にご面倒をお掛けするように見えますが、この昔ながらの手法こそがMUGEプランニングのこだわり、そう理解して頂きたいと思っています。
また、一般的にこのやり方ですと申込み→支払いの案内→入金確認→チケット送付と、二度手間になってしまうところ、MUGEプランニングでは先にチケットを送り、そのあと振り込むという1往復だけの行程で済みます。

「先にチケットを送ってくるなんて良心的ですね」

お褒めの言葉を頂いたこともありますが、そこは住所とお名前を控えてあればお客様が支払いを忘れていたりしても確認のメールや電話ができます。最悪、当日にその席に足を運んで入金の確認をすることもできます。何より一年半前にコロナで公演が軒並み中止、延期になった時、うちはこの方式のおかげで払い戻し、延期の事務手続きが最小限で済んだのは結果的にありがたいことでした、

何よりも助かったのは、「誰が」「どこで」「何枚」購入したかというリストがほぼ手元にあったこと、もしチケットぴあなどに委託していたら誰に何枚行っていたかがわからず、払い戻しの方法も煩雑を極めていたわけで、それまで「今時カード決済もできないなんて」「ペイペイで支払いができるようにしてほしい」「大きい公演は今はほとんどスマチケ採用してるよ」などのお叱りをうけることもしばしばあったのですが、今はお客様もこの方式に納得して頂けたのかなと感じています。

「でも、1000人ぐらい入る大きい会場で公演するときは手売りだけじゃ間にあわないはず。ぴあとかローソンとかイープラスとか、ネットでの販売しないと無理じゃない?」

ご安心下さい。MUGEプランニングは、そんな大きな会場ではやりません。(笑い)
MUGEプランニングが行なう公演は、多くても700人ぐらいまでです。落語も講談も浪曲も、本当はそんな大会場でやる芸ではないと思っています。

これからも、こぢんまりと、お客様が求める身の丈に合った会を、東西どちらからもお呼びしてやっていきたいと思います。どうぞこれからもMUGEプランニング、どうかよろしくお願い致します。

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「名人の定義」松喬・扇辰東西名人会 雑感~7/22 大須演芸場

一年に15回ほどは、大須で公演をさせて頂きます。立地、雰囲気、収容人数、どれをとってもこの会場が一番、名古屋で落語に似合っていると思っているから。
それぞれの公演に名称を付けますが、あまり「名人会」とつけることはありません。
名人かどうかはお客様それぞれが判断することだと思っているのと、万が一でも「どこが名人だ」と評されることがあってはならないと考えるからです。

ですが、今回はどうしても「名人会」とつけたかったのです。なぜかと言えば、東西の落語家さんで、「実力」がこれほどあるのにあまり知られていない、あるいは地味だと思われている最右翼の方へを紹介するフレーズとして「名人」以外の言葉が見当たらなかったからです。笑福亭松喬、この方こそ上方落語界を代表する「名人」であると私は思っていたから、あえてつけさせて頂いた「東西名人会」だったのです。

「狸の札」  辰ぢろ
「花色木綿」 松喬
三方一両損」扇辰  ~中入り~
「茄子娘」  扇辰
「三十石」  松喬

終わってみて、どれほどのお客さんが松喬師匠を「名人」だと思って下さったかはわかりません。もしかしたら「爆笑王」的に感じた方もいるかもしれません。
ですが、裏で聞いていて松喬師匠は間違いなく名人だと感じたことがありました。

ご存知の方も多いと思いますが、上方落語を代表する演目である「三十石」。
船旅を題材とするこの演目を得意とする噺家さんは上方ではたくさんいらっしゃいますが、ほとんどの方は落語の中に「舟歌」を歌う部分が出てくるので三味線などのハメモノがないと雰囲気が出ないということで敬遠なさる噺家さんが多いです。
そんな中で、それを承知で先代、先々代松鶴師匠譲りの本寸法を涼しい顔で演じて見せた松喬師匠、これだけで私はその凄さを感じたのですが、トリネタを開演前に聞いていた扇辰師匠が、御自分の中入り後の高座が終わるとお着換えの間は楽屋のスピーカーの音量を最大限にし、お着替えが済むとソデにお座りになって身じろぎもせずに松喬師匠の高座を見つめていたその事実、これこそが「名人は名人を知る」その何よりの証明だと思いました。

松喬師匠は知る人ぞ知るプロ野球オリックス」ファン。それも昭和の阪急ブレーブス時代から。その大好きな野球に例えるならば、今日の高座に限って言えば扇辰師匠があらゆる球種が平均点を上回るサブマリン山田久志で、松喬師匠はガソリンタンクと言われた無尽蔵のスタミナで350勝を挙げた米田哲也。若い人には全くわからないとは思いますが(笑い)
とにかく間違いないことは、二人とも「名人」の名に恥じない高座をお勤め頂いた、その現実。そして、帰り際に扇辰師匠がぽろっとこぼした一言。

「今日は久々に刺激をもらいました。ありがとうね」

次回は令和4年、6月26日です。

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松喬

 

「きく麿の柔、鯉八の軟」~7/11 大須「きく麿鯉八兄弟?会」雑感

日曜日は大須、きく麿鯉八兄弟?会。
前日の骨太感とは裏腹な、ふわふわした新作の競演を予想していた二人会が、まさかこんな濃いものになるとは想像もしていませんでした、
お二人が会場入りしてまず、オープニング「顔が似ているトーク」をしていただけないかとお願いしたところ快諾して頂き、お互いが間違えられたエピソードを披露。

そこで、作った作品をどうするか、の話題になった時に、きく麿師匠は「手直しして何とかウケるように持っていく」鯉八師匠は「ウケをとれなかったものはすぐに握りつぶしてお蔵入り」お二人の答えが正反対となったことがとても興味深かったです。

そしていよいよ本番へ、最初にきく麿師匠が登場、師匠は瞬時に会場の雰囲気を読み、鯉八師匠のお客様が多いと判断して、アウェーを感じたと言います。でも、そこで万人にウケる鉄板ネタで笑いをとるほうに走らず、あえて少しお客様に考えさせるネタ「守護霊」にチャレンジ。それを受けて、鯉八師匠がご自分のキャラを「悪」の方向に向けるマクラでお客様を驚かせてから、壮大な空想ネタで「いまじん」へ。この時点でお互いが静かに張り合っている雰囲気を感じました。

中入りを挟み、今度は先ほどの毒舌から一転、鯉八師匠が仲間や師弟の絆をマクラに降って雰囲気を変えると、トリのきく麿師匠が人情噺仕立ての新作を。中には涙を流して聞き入る人も。ふわふわと、何も考えなくても聞ける会だと思っていたのに、見事に二人に裏切られ、また二人の芸の底の深さにしてやられた二時間でした。

落語に級があるとするならば、この日は間違いなく上級コース。
緻密に張り巡らされた下げまでの撒き餌に気づかないと、おいて行かれるようなそんな濃くてコアな公演でした。

結論。

ただ、笑って終わらせるだけじゃない、新作落語にもこんな、人間模様を細かく描ける噺があるんだということを再認識した、セブンイレブン、いい気分の一日でした。

「オープニングトーク
「雑俳」菊一
「守護霊」きく麿  「いまじん」鯉八
「最後の夏」鯉八  「何が面白いの?」きく麿

次回は、7/17日曜日に予定しています。来年もやるよ!兄弟みたいな会。

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一気の押し龍玉、変化技の小辰~6/13 辰のオトシゴ雑感

結果的に、この日になってよかったのかも知れません。

17:30から行われた辰のオトシゴは、4.25からの延期公演。
実は延期の理由がコロナではなく小辰さんのダブルブッキングであったということは、ともすればご本人の士気をそいでしまうのではないかと心配していました。
確かに日程の移動や払い戻しの手間などで大変だったのは事実ですが、もともと小辰さんの真打昇進のステップにしてほしかったこの会である以上、主役の小辰さんのモチベーションが下がるのは一番困ること。最後までそれを心配していましたが…それは杞憂でした。

ミスはミス。開口一番で登場の小辰さんはこのミスについて謝罪をした後そのもう一つの仕事がコロナで中止になったことを明かし、結局家でビールを飲んでいた・・・などと自虐しながらその自宅での顛末を笑いに変えて見事にお客様をつかんでいました。

でもそこまでは、私には起こりうることとして想定の範囲内
ところがその安心感は、次の龍玉師匠の「お直し」で吹っ飛んでしまいました。
ゲストであってゲストにあらず・・・当初から龍玉師匠に、高い壁であってほしいとお願いしていたそのさらに上の存在感を、龍玉師匠は高座で示してくださいました。
座布団返しでソデに待機していた源太くんが、「上方にはこんなタイプの方、おりませんっ」と目をまん丸くしながら驚いていた通り、一言一句おろそかにせず迫力十分に言葉を紡いでいくその存在感に圧倒されっぱなし。中入りが終わった後、これに小辰さんはどう対処するんだろうといささか心配になりました。

自分で企画しておいて心配するというのもおかしな話ですが、それほど今回の刺客は小辰さんにとって手ごわい・・・そう感じてしまったのです。

中入り後は、今度は龍玉さんは軽い噺でさっとおりました。でも、重厚な噺の後にぞろぞろ、の軽妙さを見せつけられる、その懐の深さにお客様も舌を巻いている、そんな感じが客席から伝わってきます。先場所終わった夏場所ではないですが、相撲でいえば龍玉師匠が強烈なぶちかましの後に得意の上手をむんずとつかみ、一気に土俵際までもっていく、そんな展開の中で、トリで登場の小辰さんは何をかけるのか。

どうする、どうする、入船亭小辰。
そこで彼が出した演目は、なんと「青菜」でした。

寄席でも頻繁に出る演目。誰がやってもそこそこに笑いが取れる噺。でも人によって、その形がずいぶん変わる、いわば個性で持っていきやすい、突進をかわしまくる噺を持ってきました。中入りが終わった時点で青菜を決めていたということだったので、今日の龍玉師匠の一気の押しに対処するにはこの方法しかないと、小辰さんが腹をくくった、私にはそう見えました。

土俵際、徳俵に詰まった後の、いなし、引き落とし、はたきこみ、出し投げ、腕ひねり、うっちゃり、ありとあらゆる変化技を駆使し、なかなか土俵を割らない小辰さん。
終わってみればお客様は、その健闘に惜しみなく拍手を送り、公演は終わりました。

手を抜かず、怒涛の寄りの龍玉師匠に、飛び道具を駆使して対抗した小辰さん。
凄い戦いを見ることができて、感謝感謝の一日。次回9/19は、最初から猫だましでもなんでも使ってくる技巧派の馬るこ師匠です。今度は入船亭お家芸の本寸法、王道の落語で迎え撃つのか、今からそんな妄想を抱いてわくわくしている私がいました。

初天神」小辰  「お直し」龍玉
「ぞろぞろ」龍玉 「青菜」小辰

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