MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

一気の押し龍玉、変化技の小辰~6/13 辰のオトシゴ雑感

結果的に、この日になってよかったのかも知れません。

17:30から行われた辰のオトシゴは、4.25からの延期公演。
実は延期の理由がコロナではなく小辰さんのダブルブッキングであったということは、ともすればご本人の士気をそいでしまうのではないかと心配していました。
確かに日程の移動や払い戻しの手間などで大変だったのは事実ですが、もともと小辰さんの真打昇進のステップにしてほしかったこの会である以上、主役の小辰さんのモチベーションが下がるのは一番困ること。最後までそれを心配していましたが…それは杞憂でした。

ミスはミス。開口一番で登場の小辰さんはこのミスについて謝罪をした後そのもう一つの仕事がコロナで中止になったことを明かし、結局家でビールを飲んでいた・・・などと自虐しながらその自宅での顛末を笑いに変えて見事にお客様をつかんでいました。

でもそこまでは、私には起こりうることとして想定の範囲内
ところがその安心感は、次の龍玉師匠の「お直し」で吹っ飛んでしまいました。
ゲストであってゲストにあらず・・・当初から龍玉師匠に、高い壁であってほしいとお願いしていたそのさらに上の存在感を、龍玉師匠は高座で示してくださいました。
座布団返しでソデに待機していた源太くんが、「上方にはこんなタイプの方、おりませんっ」と目をまん丸くしながら驚いていた通り、一言一句おろそかにせず迫力十分に言葉を紡いでいくその存在感に圧倒されっぱなし。中入りが終わった後、これに小辰さんはどう対処するんだろうといささか心配になりました。

自分で企画しておいて心配するというのもおかしな話ですが、それほど今回の刺客は小辰さんにとって手ごわい・・・そう感じてしまったのです。

中入り後は、今度は龍玉さんは軽い噺でさっとおりました。でも、重厚な噺の後にぞろぞろ、の軽妙さを見せつけられる、その懐の深さにお客様も舌を巻いている、そんな感じが客席から伝わってきます。先場所終わった夏場所ではないですが、相撲でいえば龍玉師匠が強烈なぶちかましの後に得意の上手をむんずとつかみ、一気に土俵際までもっていく、そんな展開の中で、トリで登場の小辰さんは何をかけるのか。

どうする、どうする、入船亭小辰。
そこで彼が出した演目は、なんと「青菜」でした。

寄席でも頻繁に出る演目。誰がやってもそこそこに笑いが取れる噺。でも人によって、その形がずいぶん変わる、いわば個性で持っていきやすい、突進をかわしまくる噺を持ってきました。中入りが終わった時点で青菜を決めていたということだったので、今日の龍玉師匠の一気の押しに対処するにはこの方法しかないと、小辰さんが腹をくくった、私にはそう見えました。

土俵際、徳俵に詰まった後の、いなし、引き落とし、はたきこみ、出し投げ、腕ひねり、うっちゃり、ありとあらゆる変化技を駆使し、なかなか土俵を割らない小辰さん。
終わってみればお客様は、その健闘に惜しみなく拍手を送り、公演は終わりました。

手を抜かず、怒涛の寄りの龍玉師匠に、飛び道具を駆使して対抗した小辰さん。
凄い戦いを見ることができて、感謝感謝の一日。次回9/19は、最初から猫だましでもなんでも使ってくる技巧派の馬るこ師匠です。今度は入船亭お家芸の本寸法、王道の落語で迎え撃つのか、今からそんな妄想を抱いてわくわくしている私がいました。

初天神」小辰  「お直し」龍玉
「ぞろぞろ」龍玉 「青菜」小辰

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