MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

「売れっ子の宿命」~文治・小痴楽二人会

大須で公演を行なう時、必ず楽屋に置いておくものがあります。
お茶?お菓子??お食事???それは当たり前に置きます。そうではなくて「ネタ帖」です。それも、演芸場に置いてあるものではなく、自前のプリントした紙です。

大須演芸場にもネタ帖はあります。でもそれは、貸館の時の公演全てが記載されているものなので前回、前々回のネタを調べようと思うとだいぶ先のものまで点検しなければならなくなるのです。

今回もその紙を楽屋におくと、その紙を見て小痴楽師匠が困った表情をしていました。
「この会で過去に出たネタを外せばいいですかね?」
「できればそれ+前回の中電で演じた3席は外してほしいです。お客様かぶるんで」
「わかりました。名古屋は本当にしょっちゅうくるんで、ネタがなくなっていくんですよね。提灯屋をやろうと思っているのですが明楽の披露目の時にやってるしなあ」
「でもその時は下げまでやったのですか?」
「いえ、途中で切りました」
「それなら下げまでやっていただくバージョンがよいかと思います」
「なるほど、それじゃあ提灯屋で」

小痴楽師匠は真打昇進後、ほとんど休みなく全国を飛び回っています。
その中で地方の三人会などならともかく、独演会とかになればネタは三席。
都市部での会とかでお客様がかぶる会などを合わせると、どうしてもネタが足りなくなります。
もちろん稽古の日を設け、先輩から教わって覚えたりはしてはいますが、そのネタが全部自分のものになるとは限らない。何度かかけてみてお客様の反応が悪いネタはそのうちお蔵入りになってしまうことを考えると、噺家という仕事はなんと過酷なものかと思ってしまいます。
スケジュールが詰まってしまえばネタは増えない。多少仕事をセーブして稽古の時間を増やせばその間の仕事は取れない。稽古と高座はいつも追いかけっこの毎日なのです。

「たらちね」空治
「擬宝珠」文治
「提灯屋」小痴楽~中入り~
「両泥」小痴楽
「死神」文治

落語協会の人みたいにしっかりと覚えてはいないですけど」
そう謙遜して高座に上がった師匠は、その言葉とは裏腹に見事な江戸っ子の若い衆を演じていました。その姿に、お父様の遺伝子を強く感じた、よい二人会となりました。