MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

「芸協に、こんな凄い噺家もいる」

「相手がワルツを踊るならワルツを、ジルバを踊るならジルバを踊れ」
これは、今は亡きプロレスAWA王者、ニック・ボックウィンクルが父親から教わったプロレスラーの理想形。観客がいて初めて成立するプロレスの極意を語ったものです。

5.1・円頓寺レピリエの夢丸独演会には、そんなニックのレスリングに匂いがしました。
この場合の「相手」とは、もちろん観客。落語家さんにとって、その日のお客様の傾向をいち早くつかみ、それに対応した笑い、ネタを出していくことが何より重要と言われています。

実は名古屋の落語の大好きなお客様には、全体的に一つの傾向があります。それは
「東京で噺家さんが演じる実験的なネタ、コアなネタ、貴重なネタを、東京に行かずとも名古屋で聞ける場」を求めることです。

基本、噺家さんは地方では鉄板ネタを持ってきたがる傾向があり、そのネタが被ることが多々あります。結果、どの噺家さんでも「井戸の茶碗」「紺屋高尾」春なら「長屋の花見」ばっかり、などになってしまうようなことがあるのです。

しかし、隠れた珍しい噺を持ちネタにすると、そもそもあまり演じられない噺→面白くない噺 というハードルがあるせいで、お蔵入りにしてしまうことが多い。
でも今回の夢丸さんには、そんな常識は通用しません。「殿様団子」「てれすこ」「山崎屋」どれもあまり演じられない噺なのに、そのどれもが面白い。しかもどの話にも夢丸師匠のキャラクターが見事に乗り移り、登場人物が明るくなっていき、そのハチャメチャぶりがたまらない、まさに夢丸ワールドが形成されていくのです。

前述のニックのたとえを当てはめるなら、敬老会に行けば爆笑ネタ、東京では実験ネタ、という普通のチョイスではなく、踊り方を変える、つまり噺の演じ方を変えるのが夢丸流なのです。

前座の頃は元気がいいだけの高座だった春夢さんが、ここまで立派になられた。
さらに、いろんな「踊り方」ができるようになった。成金だけじゃない、芸協にはこんな凄い噺家さんがいるんだ。名古屋のお客様がやっと気づいて下さった。

さあ、ここから夢丸師匠の時代が始まる、そんな気がする独演会でした。

「殿様団子」「てれすこ」「山崎屋」夢丸