MUGEプランニングのたまさかブログ

東海・中部地区で落語公演を開催しているオフィスのブログ

「丞様のフ・シ・ギ」~オースのジョー10雑感~

早いもので菊之丞師匠の独演会を手掛けて5年が過ぎました。西文化小劇場で1回、大須で10回の計11回を過ぎ改めて菊之丞師匠の落語家としての安定感に感服しています。

こんなことをいうのは席亭としてはいけないのかもしれませんが、こういう仕事をしていると、まだ師匠を知らないお客様から「菊之丞師匠はどんな噺家さんなのですか?」と何度か聞かれていますが、正直、師匠を簡潔に表す言葉が見つからず、いつも「本寸法の噺家さんですよ」というあまり答えとしては秀逸ではない答えを返していました。

でも、本寸法って何かと聞かれれば、自分にもこうであるという定義はありません。
きちっと教わった通りにやることが本寸法ならかなりの数の噺家さんが本寸法ですし、昨今の落語事情をつぶさに見れば、教わった通りのことをきちんとやっている噺家さんが日の目を見ているとは限りません。むしろ逆に入れごとの面白さで笑いをとったり、古典落語の骨格をそのままに設定を現代に変えて演じる噺家さんに人気が偏る傾向を感じています。

その点でいうなら、菊之丞師匠は何も目新しいことをしているわけではありません。
その噺のマクラも、コアなファンなら聞き飽きているだろう定番のものをふってそのまま噺に入り、そしてサゲもそのまま、古典の通りです。なのに人気があります。名古屋でのこの会も、毎回安定の客入りです。まして今回は同じ日に愛知県内で同じ時間に一之輔、文菊、いちか三人会、羽島で鶴光、たい平、白鳥三人会がバッティングしてお客様が分散することが予想されたのですが、ふたを開けてみれば安定の入りでした、

なぜなんだろう。どうしてなんだろう。

師匠の高座って、妙な安心感があるのです。
今回の芝浜も、お客様のアンケートは絶賛、他の誰でもない、「菊之丞師匠の芝浜」を聴けたと満足してお帰りになる方ばかり。まさに王道の落語。でもその雰囲気を醸し出せる何かがあるに違いない。

なぜなんだろう。どうしてなんだろう。

菊之丞師匠と同じような芸歴の噺家さんでも、達者な人はいます。所作がきれい?でもそれも、ほかに所作のきれいな方も何人も知っています。でも、達者とか本寸法とかの表現では測れない、そんな魅力が菊之丞師匠にはあって、それをみなさん、心地よく受け止めてお帰りになられる。

結局それが何かは、私にも説明できません。今回の二席を聴いてもなお、この疑問に対する明確な答えを得ることはできませんでした。でもいいのです。そのままの、等身大の師匠の落語が聞ければいいの。ずっとこの会が続けばいいの。そんなお客様がいらっしゃる限り、この会は続きます。不思議はずっとフ・シ・ギのままで・・・・。

・二つ目昇進決定挨拶 (菊之丞・まめ菊)  ・鰻屋 まめ菊
・片棒 菊之丞  ・音曲漫談 のだゆき  ・芝浜 菊之丞     

f:id:mugeplan29:20211129200916j:plain