「このご時世、病気はありえることだが今回の代演は上か、悪くても同列の原則に合わない。不愉快。いい噺家さんとのネットワークがあるムゲプラさんなのに、そういう顔を連れてこれなかったのか。その努力不足を強く思う」
公演後に、こんなアンケートがありました。
おっしゃる通りです。お客様の立場からすれば、当然の思いです。一朝師匠もそうお感じになっていたと思うのです。だから電話口で「申し訳ございませんが今回の公演は中止に」とおっしゃっていたのです。
二週間前、一朝師匠がコロナ陽性になったと聞いて、気をもんでいました。さすがに決断しなければならないとお電話をさし上げた時、師匠の選択は「公演中止」でした。
「かしこまりました」師匠にそう伝えて電話を切ったあと、悩みました。
実はこのアンケートの方のおっしゃる通り、何名か上か同列の方に聞きました。しかし直前のことでしかも日曜日、一朝師匠の格に見合う方であいている方はいらっしゃいませんでした。
「中止にしようか」
そう思いが固まった時、別の思いがこみ上げてきました。この企画は、一朝師匠をお呼びすることはもちろんだけれど、その最後のお弟子さん、朝枝さんをみなさんに聞いていただきたいための師弟共演だったということを。
一朝師匠は、自分が来ないことでキャンセルが増え、迷惑がかかるといけないとの思いから、中止にしようとおっしゃったと思うけれど、こちらさえ腹をくくればいい話。
そう思った瞬間、私たちの中での結論が出ました。
「一朝師匠が代演の方にあとで気を使わなくてよくて」
「キャラ的に朝枝さんと芸風がかぶらなくて」
「今までお仕事関係などでお付き合いがある方」
「あの方に聞いてみよう、空いてなかったら中止ね」
そう考えてつないだ電話口の向こうで、彼はこうおっしゃいました。」
「私なんかでよろしいのでしたら、行かせて頂きます」
この瞬間に、<代演 春風亭三朝>はそんな経緯で決まりました。
最終的に一朝師匠に確認を取らなければいけないとお電話をさし上げた時、師匠に
「そうしていただければ、たいへんありがたいです」
とお言葉をいただきました。払い戻しも多かろうけれど、やるしかない。
私たちは、吹っ切れた気持ちで2/27を迎えたのでした。
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「金明竹」 いっ休
「やかんなめ」三朝
「一分茶番」 朝枝 ~中入り~
「真田小僧~通し」朝枝
「愛宕山」 三朝
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一席目の三朝師匠がみなさんに、いつものセリフを言うと万雷の拍手。
「そういうことで私は一朝の弟子なので、今日は
いっちょうけんめいに やらせていただきます!」
実は、アンケートには続きがあります。
「小言は小言として、三朝は明るく、かつ一朝ばりの口跡、フラもあり、実力をのばしつつある。今日もその片鱗は十分見せていた。小三治とは違う「やかんなめ」はそれなりに楽しめた。また朝枝はの一分茶番は、鳴り物の名人一朝の弟子らしく、芝居をしっかりとふまえた一席だった。」
小言の後は、ほめて頂く。名古屋の耳の肥えたお客様の嘘偽りのない感想をかみしめて、私は眠りについたのでありました。